大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(特わ)1026号 判決

被告人

(一)本店所在地

東京都港区南青山五丁目六番二三号

第一信用株式会社

(右代表者代表取締役舛井敏夫)

(二)本籍

石川県河北郡内灘町大字大根布二字八番地の二

住居

東京都大田区南雪ケ谷三丁目八番一八番一七号

職業

会社役員

舛井敏夫

昭和九年八月一〇日生

公判出席検察官検事

清水勇男

主文

被告会社第一信用株式会社を罰金九〇〇萬円に

被告人舛井敏夫を懲役八月に、それぞれ処する。

ただし、被告人舛井敏夫に対し、この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告会社および被告人舛井敏夫両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都港区南青山五丁目六番二三号に本店を置き、不動産の売買及び仲介業等を目的とする資本金一〇〇万円の株式会社であり、被告人舛井敏夫は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人舛井敏夫は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上および仕入の一部を除外するなどして所得を秘匿したうえ

第一  昭和四五年五月一日から同四六年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五四、五一四、九九六円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、昭和四六年六月三〇日、東京都港区六本木六丁目五番二〇号所在所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三三二、四五一円で、これに対する法人税額が九二、九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一九、七七一、三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額一九、六七八、四〇〇円を免れ

第二  昭和四六年五月一日から同四七年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五三、四八八、七五一円(別紙(二)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、昭和四七年六月二八日、東京都港区西麻布三丁目三番五号所在所轄麻布税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二、九九六、二三四円で、これに対する法人税額が八三八、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額一九、三九四、三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額一八、五五五、五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実および全般にわたり

一、 被告会社の会社登記簿謄本

一、 被告人の収税官吏に対する質問てん末書三通

一、 同じく検察官に対する供述調書二通

別紙(一)、(二)修正損益計算書に掲げる科目別当期増減金額欄記載の数額について

<昭和四六年四月期売上、同仕入、同仕入手数料、同期末造成地棚卸高及び昭和四七年四月期期首造成地棚卸高、同仕入手数料、同期末造成地棚卸高、同事業税認定損の各科目を除くその他の科目につき>

一、 検察官寺西輝泰、弁護士佐々木務両名作成名義の昭和四九年一〇月二三日付合意書面

<昭和四六年四月期売上につき>

一、 第二回公判調書中の証人大山隆一郎の供述部分及び当公判廷における同証人の供述

一、 押収してある無標題ノート二冊(昭和四九年押第一六八二号の四)

一、 収税官吏菊池修作成名義の昭和四八年一二月二六日付売上についてと題する調査書

<昭和四六年四月期仕入につき>

一、 収税官吏菊池修作成名義の昭和四八年一二月二六日付仕入についてと題する調査書(ただし後記の証拠と矛盾する三物件の関係部分を除く)

一、 証人大森新吉の当公判廷における証言(下新宿五三五九-三の物件)

一、 第四回公判調書中の証人石塚茂の供述部分( 〃 )

一、 第四回公判期日で取調べた土地売買相互契約書( 〃 )

一、 第三回公判調書中の証人木村桂の供述部分(西高野及び西原の物件)

一、 第五回公判調書中の証人泰楽慶蔵の供述部分( 〃 )

一、 第九回公判期日で取調べた土地売買契約書四通のうち代金額を一七〇〇万円とするもの及び三、〇〇〇万円万円とするもの二通( 〃 )

<仕入手数料につき>

一、 前記の合意書面

一、 第九回公判期日で取調べた

(一)  石塚貞紀作成名義の証と題する書面

(二)  信和産業株式会社作成名義の領収証

(三)  池田義弘作成名義の領収証

(四)  第一信用株式会社従業員作成の支払明細メモ

一、 証人石塚貞紀の当公判廷(第六回公判)における供述

一、 証人川村脩の第五回公判調書の供述部分及び当公判廷(第一二回公判)における供述

一、 被告人の当公判における供述

<昭和四六年四月期期末造成地棚卸高、昭和四七年四月期期首、期末造成地棚卸高につき>

一、 収税官吏菊池修作成名義の昭和五〇年八月一四日付脱税額計算書添付の別紙(一)、(二)、(三)

<昭和四七年四月期事業税認定損につき>

一、 被告会社の昭和四六年四月期の法人税確定申告書

別紙(一)、(二)修正損益計算書に掲げた公表金額及び過少申告の事実について

一、 昭和四六年四月期法人税確定申告書(前同押号の符一)

一、 昭和四七年四月期法人税確定申告書(前同押号の符二)

(事実の認定に関し争いのある点に対する判断)

(一)  売上について

検察官、弁護人において争いのあるのは

(イ)  関宿町木間ケ瀬字下羽貫一九一五番地の土地 一、四九九坪四七

(ロ)  関宿町中戸字古中戸四七六番地外の土地 二、四九九坪九四

の売上価額である。

すなわち検察官は、(イ)の物件の被告会社におけるいわゆる卸売り仕切り単価は坪当り一九、〇〇〇円であり、したがつてその売上金額はこれに右の坪数を乗じた二八、四八九、九三〇円であり、また(ロ)の物件の右の坪当り単価は二二、〇〇〇円であつたからこれに右の坪数を乗じた五四、九五四、六八〇円が売上金額であると主張する。

これに対し、弁護人は、(イ)(ロ)の物件とも右の卸売り坪単価は一八、〇〇〇円である旨主張する。

ところで、右(イ)、(ロ)の物件全部につきその卸売り仕切り値がいくらであるかを直ちに明確にする歴然たる証拠は存在せず、卸売りをうけたと思われる大山隆一郎あるいは木村一左右の証言(一部につき公判調書中の供述部分)によつても、その正確なる価格を断定しがたいところ、押収にかゝる無標題ノート(押第一六八二号符四のうち検二七四)中の二三枚目には本件(イ)の物件の土地の一部を大山隆一郎が吉田維智郎に小売りした記録があり、その記録のうち原価欄の記載は、右大山が被告会社から卸売り仕切りをうけた価格であることが認められるのであり、その原価欄の記載に、いわゆる水増しなどの記載はなく、正確に記載されていた(第一二回公判における証人大山隆一郎の供述)というのであり、それによると当該部分の坪単価仕切り値は一九、〇〇〇円であつたと判断できる。また押収にかかる売上集計表(前同押号符五)の記載及び無標題ノート(同押号符四の検二七三)の二枚目以下の記載は右大山がなした(ロ)の物件土地の相当部分の小売りの記録と認められるところ、そこからは当該土地の仕切り単価は二二、〇〇〇円であつたと判断できる。そして被告人舛井の収税官吏に対する昭和四八年六月四日付の質問てん末書によると、被告会社はある区劃の卸し販売に当つて販売時期のズレあるいは卸し先相手方によつて仕切り単価をかえることはなかつたという。

以上の事実関係を綜合して判断するに、本件(イ)の物件の売上金額は坪単価一九、〇〇〇円として計算し、(ロ)の物件については坪単価二二、〇〇〇円として計算した額をもつて当該土地の売上金額と認定するのが相当である。

(二)  仕入手数料について

仕入手数料の支払いについての検察官、弁護人の主張の相異は別紙(四)仕入手数料一覧表のとおりである。

ところで、検察官の主張する支払手数料額については、収税官吏中島啓典作成名義の昭和四八年一二月二六日付仕入手数料勘定についてと題する調査書によつてこれを認めることができるところ、弁護人は別紙(四)仕入手数料一覧表で明らかな如く、検察官主張の額を上廻り、あるいはそれ以外の手数料が支払われたというので以下、これにつき判断する。

(イ)  昭和四五年一〇月三〇日池田義弘に対する支払い 三五〇、〇〇〇円

(ロ)  昭和四五年一〇月三〇日石塚貞紀に対する支払い 二三〇、〇〇〇円

右の二つの支払いの事実は、池田義弘名義の領収証及び石塚貞紀名義の証と題する書面(いずれも第九回公判期日で取調ずみ)の記載並びに証人石塚貞紀の当公判廷における供述によつて、これらが下新宿五三五九-三の土地の仲介手数料として支払われたものであることが認められる。

なお、検察官は、右の(イ)、(ロ)の支払いは仮に存在するとしても、それは検察官も認めている昭和四五年九月一八日石塚貞紀宛支払の三五〇、〇〇〇円と重複するものである旨主張しているが、この三五〇、〇〇〇円は押収にかかる証と題する書面(前同押号符一三)の記載に照らしてみると、これが京葉住宅の土地売買にからむものであることすなわち下新宿五三五九-二の土地のものであつたと認められるのであり、重複しないものと認める。

(ハ)  昭和四五年一一月二日信和産業(株)に対する支払い 二五〇、〇〇〇円

右の支払いの事実は信和産業(株)名義の領収証(第九回公判期日で取調ずみ)の記載及び第五回公判調書中の証人川村脩の供述部分(石塚茂の木間ケ瀬下新宿の土地の件で事後に関与し二五万円貰つた旨)によつて、これが下新宿五三五九-三の土地に関する仲介手数料と看做されるべきものと認められる。

(ニ)  前記一覧表3欄の物件に対する支払手数料が七〇〇、〇〇〇円ではなく、八五〇、〇〇〇円であること

(ホ)  同表4欄の物件に対する支払手数料が三〇〇、〇〇〇円ではなく、五一〇、〇〇〇円であること

(ヘ)  昭和四六年七月一八日信和産業(株)に対する支払 一、〇〇〇、〇〇〇円

これら(ニ)(ホ)(ヘ)は仲介者信和産業に対する仕入手数料として支払われたものであるところ、検察官の主張は、信和産業(株)作成名義の第一信用株式会社等との取引について」と題する上申書(第一二回公判期日で取調べ)をその根拠とするものであつて、これ以外に支払い手数料はないとするものであり、弁護人は被告会社従業員作成の支払明細メモ(第九回公判期日で取調べ)の記載を主たる根拠としてその支払事実を主張する。

ところで右の上申書の記載のみが正しく、同上申書に記載がないからといつて手数料が支払われていないと速断できない。

すなわち前記(ハ)の手数料の存在は右の上申書には全くのつていないし、上申書中における物件の仕入れ金額も前の一覧表4、5の物件については、いわゆる圧縮された虚偽の契約金額が記載されているといつた具合であつて、この上申書の記載のみを信じ、信和産業が他に手数料を受取つていないとすることはできない。

ところで、証人川村脩の第五回公判調書の供述部分および当公判廷における供述並びに被告人舛井の当公判廷における供述によると被告会社と信和産業(株)との土地仲介に伴う手数料は真実の仕入金額の三%程度とする暗黙の合意があり、その手数料の具体的支払方法は、仕入物件ごとに精算するという方式ではなく、いわばきりのいい金額で内金、内金といつた形で支払われていたというのである。そして前記一覧表3~12の物件はいずれも信和産業(株)が仲介したものでありその仕入総額は二五七、四〇九、八八八円であつてこれに対する三%相当額は七、七二二、二九七円となるところ、弁護人が主張する額は八、〇五五、〇〇〇円であつてその間の差異は三三二、七〇三円であり決して多額という数字ではない。

さらに、こゝで注意すべきことは、検察官が主張する仕入金額は、当初それがいわゆる圧縮された契約書に基づく誤つたものであつて、本件審理の途中において冒頭陳述の変更という形で増加しているという事実である。通常、仕入金額が増加した場合仕入手数料も増加するであろうことは常識である。しかるに、本件においては検察官は仕入金額の増加は認めたけれども仕入手数料はそのまゝの主張を維持しているというのであつて、その根拠は信和産業(株)の前記上申書を信じ、被告会社の支払メモの信頼性を否定して考えたからほ外ならない。

しかし、上申書自体に全幅の信頼がおけず、この記載以外に手数料の授受がなかつたと断定出来ないという前述の状況を考慮するとき、そして検察官において、弁護人が主張する金額の支払がなかつたとする確たる証明がない以上、弁護人の主張する支払メモに記載された金額が支払われたと認めるのが相当である。

すると被告会社が四六年四月期中に支払つた仕入手数料の総額は四、七八〇、〇〇〇円であり、四七年四月期中に支払つた額は四、四五五、〇〇〇円であると認められる。

(三)  雑収入について

四七年四月期の雑収入である

(イ)  大山隆一郎と共同でなした金沢市内関係の土地売却による利益 一四、〇二九、四〇〇円

(ロ)  木村一左右と共同でなした延岡市内関係の土地売却による利益 一、〇〇〇、〇〇〇円

のうち、(イ)の利益額につき弁護人は争う。

すなわち右の金員相当を配分されたこととなつたことは認めるも、うち五、〇〇〇、〇〇〇円は大山からいまだ受取つていない金額であり、また二、五二九、四〇〇円は右の土地売却に伴う必要経費であつたからこれらの合計額が控除されてしかるべきであるというのである。

しかし証人大山隆一郎の当公判廷における供述によると右の五、〇〇〇、〇〇〇円は、大山が第一信用と共同で金沢市内でバーを経営するための資金として出資したこととしたものであつたというのであり、右のバーが事実上倒産し、利益が上らず出資金の回収が出来なかつたというのが真相であつて、本来収入とされるべきことに変りはない。

また二、五二九、四〇〇円の必要経費があつたとの主張も、その主張につき具体的根拠が認められないうえ、押収にかかる金沢売出収支一覧表(前同押号の符八)によると前記配分金の算出にあたつては仕入、広告宣伝費は勿論、出張費、交際接待費、その他のいわゆる経費と思料されるものをすべて控除していわゆる純利益を算出したうえそれを配分していることが認められるから、弁護人の主張は採らない。

(法令の適用)

被告会社につき

法人税法一五九条、一六四条一項、刑法四五条前段、四八条二項、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条。

被告人につき

法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第一の罪の刑に加重)、二五条一項、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村勲)

別紙(一)

修正損益計算書

第一信用株式会社

自 昭和45年5月1日

至 昭和46年4月30日

No.

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

第一信用株式会社

自 昭和46年5月1日

至 昭和47年4月30日

No.

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

税額計算書

第一信用株式会社

No.

〈省略〉

別紙(四)の一

仕入手数料一覧表

〈省略〉

〈省略〉

第一信用株式会社

〈省略〉

別紙(四)の二

仕入手数料一覧表

〈省略〉

〈省略〉

第一信用株式会社

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例